『戰旗』『文藝戰線』七月號創作評
−−
【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ]
−−
『戰旗』
彼女等の會話 (窪川いね子氏)
この月讀んだプロ作品中での佳品である。
取扱はれてゐるものは杉善といふ「かなり大きい、名の賣れた」書店に起つた爭議である。作者は素直な筆つきで、そこに傭はれてゐる女店員の心に映じた爭議を――彼女達がその爭議によつて體驗して來たことを描いてゐる。
あまり名を見ない女流作家である。十五の女店員を、「彼女等はまだ髮を引つ詰めにして、身體の痩せた、着物の裾と足袋の間に脛の見えてゐる娘たちであつた。」と書く。また「みち代は土間の中で、亂雜に脱いである泥つぽい男ものの履物の中に、赤い鼻緒の友達の下駄を見つけると、自分のをそれに竝べて脱いだ。」と書く。女店員を書き女店員の些末な心遣ひを書くのに、作者の筆は正しく女流の筆である。女らしい眼つけ所がある。女流作家としての明瞭な足跡を印したと云つていい。
筆致は手馴れてゐて、無駄な描寫がない。無駄がないといふことは、書
次へ
全6ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
梶井 基次郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング