んまん》を忍ぶことが出来ないのです。なんであの晩、家を出る時から合意なものですか、女の方では、可愛いには可愛いが、どうして宜《よ》いか分らないほど困らせられてしまって、なだめるために外へ出たのです。だから女は帰ってくるつもりであった。男だって無論そのおりにどうしようと決心していたのではないが、どうしても抑《おさ》えられない本能から無理と知ってあんなところまで行ってしまったのです。心中なんていうのはそれらの絡《から》みあった結果で、都合よくゆけばああしようと思ったのでは決してない。女の方では困った事になってしまったなあと思った事もあるに違いない。男の方では段々と執着が増していったのだ」
[#ここで字下げ終わり]
と至極《しごく》ありふれた解釈を、手やすく下してしまった。普通それが早分りのする人情|世故《せこ》に通じた一般的のものだけに、金持ちや、物分りのいいという世間《せけん》学通《がくつう》の人たちのいう事はこれと一致した。そしてこれらの人々の皮相な解釈ほど、人間本然の心の秘密から遠いものはなく、したがってこれらの人々の、その人自身の心の生活ほど貧しいものはない。

 生命を取りとめた
前へ 次へ
全40ページ中28ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長谷川 時雨 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング