純に帰一させようとする純粋性というものにむかって突《つき》進むが、女性はある事に触れるたびにその環境に動かされやすく、感情に殉じやすいのは当然である。それゆえに彼れらの同情は年若く、熱情に充《み》ちたらしい青年の方へばかり傾くと――しかし私はやっぱり鎌子のために、一切の彼女の生活の背景を考えてやらずにはいられない。女性として、女のために言い争った。
 またある日、ある宗教家に面会したおり、ふとその夜の論難を語ると、その人はこういった。もとよりその円頂黒衣の人は洒脱《しゃだつ》な気さくな人であったが、こともなげにその解決をつけてしまった。
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「あなた方はあまり深く人心を洞察《どうさつ》しすぎるよ。あれは倉持が惚《ほ》れていたのです。それにちがいはありません。そして嫉妬《やきもち》も男の方が焼いたのさ。あの晩の酒だって、泣いていたのだって、みんな儘《まま》ならぬからこそ憤《いきどお》ろしくなったのです。私はそういう例を沢山に知っている。自分の方が愛されていると知っていながら妬《や》くのです。当然のことでありながら、主人の寝床をつくるということにさえ堪えられない憤懣《ふ
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