芳川鎌子
長谷川時雨

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)揃《そろ》えて

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)男女|相殺《そうさい》

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(例)[#ここから2字下げ]
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       一

 大正六年三月九日朝の都下の新聞紙は筆を揃《そろ》えて、芳川鎌子《よしかわかまこ》事件と呼ばれたことの真相を、いち早く報道し、精細をきわめた記事が各新聞の社会面を埋めつくした。その日は他《ほか》にも、平日《つね》ならば読者の目を驚かせる社会記事が多かった。たとえば我国の飛行界の第一人者として、また飛行将校のなかで、一般の国民に愛され、人気の高かった天才沢田中尉が、仏国から帰朝後、以前の放縦な生活を改めて自信ある、自らの考案になった機に乗って斯界《しかい》のために尽そうとした最初の日に墜落して名誉の犠牲者となったということや、米国大使が聖路加《せいろか》病院で逝去されたことなどが報じられた。それらの特報は大きな注目を受けなければならないのに、多くの人の目は多くというより、その悉《ことごと》くが鎌子夫人
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