純に帰一させようとする純粋性というものにむかって突《つき》進むが、女性はある事に触れるたびにその環境に動かされやすく、感情に殉じやすいのは当然である。それゆえに彼れらの同情は年若く、熱情に充《み》ちたらしい青年の方へばかり傾くと――しかし私はやっぱり鎌子のために、一切の彼女の生活の背景を考えてやらずにはいられない。女性として、女のために言い争った。
またある日、ある宗教家に面会したおり、ふとその夜の論難を語ると、その人はこういった。もとよりその円頂黒衣の人は洒脱《しゃだつ》な気さくな人であったが、こともなげにその解決をつけてしまった。
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「あなた方はあまり深く人心を洞察《どうさつ》しすぎるよ。あれは倉持が惚《ほ》れていたのです。それにちがいはありません。そして嫉妬《やきもち》も男の方が焼いたのさ。あの晩の酒だって、泣いていたのだって、みんな儘《まま》ならぬからこそ憤《いきどお》ろしくなったのです。私はそういう例を沢山に知っている。自分の方が愛されていると知っていながら妬《や》くのです。当然のことでありながら、主人の寝床をつくるということにさえ堪えられない憤懣《ふんまん》を忍ぶことが出来ないのです。なんであの晩、家を出る時から合意なものですか、女の方では、可愛いには可愛いが、どうして宜《よ》いか分らないほど困らせられてしまって、なだめるために外へ出たのです。だから女は帰ってくるつもりであった。男だって無論そのおりにどうしようと決心していたのではないが、どうしても抑《おさ》えられない本能から無理と知ってあんなところまで行ってしまったのです。心中なんていうのはそれらの絡《から》みあった結果で、都合よくゆけばああしようと思ったのでは決してない。女の方では困った事になってしまったなあと思った事もあるに違いない。男の方では段々と執着が増していったのだ」
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と至極《しごく》ありふれた解釈を、手やすく下してしまった。普通それが早分りのする人情|世故《せこ》に通じた一般的のものだけに、金持ちや、物分りのいいという世間《せけん》学通《がくつう》の人たちのいう事はこれと一致した。そしてこれらの人々の皮相な解釈ほど、人間本然の心の秘密から遠いものはなく、したがってこれらの人々の、その人自身の心の生活ほど貧しいものはない。
生命を取りとめた
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