ように出されて、子たちがいる家にも足むけが出来ないと、死にもしかねない有様に、当時、草|茫々《ぼうぼう》とした、破《あば》ら家《や》を生麦に見つけだして、そこに連れて来てあげて、やっと心持ちを柔らげさせたのではなかったか。そのおり、利益のあったときには、長谷川さん長谷川さんとやさしくした株主のだれが、優しい言葉をかけたか? もとより、無智だった母の、法律的なことは知らずに、感情からのゆきちがいはあったとしても、権利、義務を主とした会社ではなく、酒と媚《こび》の附属する料理店で、お客であって株主でもある人たちは、一番やすく遊んで食べて、利益も得ている、その株主の一人で柳原さんもあったのだ。顔馴染《かおなじみ》を利用するのが、あんまり現金すぎるとも思い、引受けた母までが嫌《いや》だった。だからといって、それとこれを混じて、ものを書くような卑劣さを持つかとおもわれるより、そう思うほうが、よっぽど賤《いや》しいと思ったのだった。だが、原稿の続きは出なかったのだ。ガン張っても誌面は自分のものでないから、どうにもしようがなかったのだ。だから、つづきはわるいが、ここからは新しく書くことにする。

 
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