をあげれば、才もあり智もあり、物に巧《たくみ》あり、悟道の縁《えに》しもある。ただ惜むところは望《のぞみ》が大きすぎて破れるかたちが見える。天稟《てんぴん》にうけえた一種の福を持つ人であるから、商《あきな》いをするときいただけでも不用なことだと思うに、相場の勝負を争うことなどは遮《さえぎ》ってお止めする。貴女はあらゆる望みを胸中より退《のぞ》いて、終生の願いを安心立命しなければいけない。それこそ貴女が天から受けた本質なのだから」
と言った。彼女は表面|慎《つつま》しやかにしていても、心の底ではそれを聴いてフフンと笑ったのであろう。
「安心立命ということは出来そうもありません。望みが大に過ぎて破れるとは、何をさしておっしゃるのでしょう。老たる母に朝夕のはかなさを見せなければならないゆえ、一身を贄《にえ》にして一時の運をこそ願え、私が一生は破《や》ぶれて、道ばたの乞食《こじき》になるのこそ終生の願いなのです。乞食になるまでの道中をつくるとて悶《もだ》えているのです。要するところは、よき死処がほしいのです」
と言出すと、久佐賀は手を打っていった。
「仰《おっ》しゃる事は我愛する本願にかなって
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