も古い『文芸倶楽部』に出ていたのは、何処やら野暮くさいが、二十三の春にうつした婚礼の丸髷のは、聡明で、しとやかで、柔らかみがあり、品のある顔と、しなやかな姿だった。
さて、傍見《わきみ》をしないで、急ぎましょう。
十九になった錦子は、小暗い木蔭の道路での、美妙斎の肘《ひじ》の小突き工合や、指の握りかた、その他のあしらいの荒っぽさや、丁寧さが、女の心を掴むのに、活殺自在であることを、なんとなく感知した。
側にいても、身が縮まるような悦びは、それはもう、とうに過ぎさった日となった。今は、美妙が接する女は、自分ばかりでないのを知って悲しかった。
――あたしはこんなことを仕《し》に来たのではない。
そんなふうに、冷たく自分を叱ることもある。
――こんなことで、一葉に負けない小説が書けるか――
悦びといまいましさと、切なさが、幻燈の花輪車《かりんしゃ》のように、赤く黄色く青く、くるくると廻る――そんな時に、国|許《もと》へ帰れと呼びかえされた。
「お父さんが、あんなに、お前の、書いたり読んだりするのを嫌がって、厳しくなさったのを、学校を勉強するからと出してあげたのだ。」
それがま
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