わたしはその「桃」を忘れない。その桃は生きてゐたのだつた。桃それよりも、もつと人間くさい、何か作者の感じてゐるものを現はしてゐた。あまりに強くそれを現はしすぎた作品《もの》だとは思つたが、不思議と心をひかれてゐる。さうした表現のよしあしはとにかくとして、なにか、桃と人と傳説とを見つめてゐるものを受けとつたのだつた。
 日本一の桃太郎は、桃の中から生れたといふ、それにもまさるめでたき作品《もの》を、生めよといふ祝言がはりに、ふとしも、こんな、蕪雜なものを書いてしまつた。多謝!
[#地から2字上げ](「明日香」昭和十一年五月號)



底本:「桃」中央公論社
   1939(昭和14)年2月10日発行
初出:「明日香」
   1936(昭和11)年5月
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2008年12月7日作成
青空文庫作成ファイル:
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