きて言うには、昨夜《ゆうべ》あれから間もなく、外で大変な風の音がしたと思うと、仏壇の位牌《いはい》もなにもかも、みんな倒れました、それがいちどきにでしたから気になって、夜の明けるのを待兼《まちかね》てそこらを見ますと、息子の大切にしていた鉢植《はちうえ》――盆栽ものが、みんな倒《たおれ》ている。そればかりならまだしも、大きな音がして戸へもののぶつかった窓から、仏壇へゆく途《みち》のものは、なにもかもみんな倒れているというので、母親は息子の帰《もど》らないのを、大変気にして祖母のところへ来たのですが、息子はいつも夜どまりをしつけているので、まさかとは頼みにもしていたのですが、ところが直《すぐ》近所の料理店《りょうりや》へ、例《いつ》も来る豆腐売りがぼんやりと荷物ももたずに来て、実は昨夜《ゆうべ》、御近所の何《なに》さんに浜町河岸《はまちょうがし》で、私が夜網《よあみ》にゆく道で逢ったところが、なんでも一所《いっしょ》にゆくというので出かけて、だんだん夜が更《ふ》けてから、ふと気がつくと、今までそこに立って網をもっていた何《なに》さんの姿がなくなっている。どうした事かと一生懸命に呼びもした
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