春宵戲語
長谷川時雨

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)お漬《つ》けもの

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)力|※[#「てへん+角」、35−9]《くら》べ

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1−91−26]
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 ふと、ある日、菜の花のお漬《つ》けものがございますかとAさんにお目にかかつたとき、關西《かみがた》の郊外の話から、お訊ねしたことがあつた。それは、ずつと前に、たしかに菜の花であらうと思ふのを食べた、その風味《ふうみ》を忘れないでゐたからだつた。
 ありますとも、しかし、あれは、はじめに出たしん[#「しん」に傍点]を止めて、二度目に一本出た花の、頭のさきを、ちよぼつと摘んだのがよろしいと委《くは》しくをしへていただいた。わたしはくひしんぼで食道樂からばかり菜の花漬をおぼえてゐたのではないが、あると聽いてうれしかつた。
 わたしは子供の好むやうな春の景色がすきで、したがつて菜の花に
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