菜の花
――春の新七草の賦のその一ツ――
長谷川時雨

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)月光《げつくわう》

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水油なくて寢る夜や窓の月(芭蕉)
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 の句は、現代のものには、ちよつとわかりにくいほど、その時代、またその前々代の、古い人間生活と、菜の花との緊密なつながりを語つてゐる。いま、わたしたちが菜の花を愛するのもさうした祖先の感謝をもつて、心の底に暖かみを感じてゐるのかも知れない。日の光りと、月光《げつくわう》と、薪《まき》の火と、魚油《ぎよゆ》しかなかつた暗いころの、燈《とも》し油《あぶら》になるなたねの花は、どんなに大切なものであつたらう。そのほかの、菜の花とよばれる幾種類のものが、みんな、われわれの生活に必要であることは、今日でも變りはない。
 菜の花は、誰にも親しみをもたれてゐる一般的な花だ。葉の中にかじかんでゐるまだ青い時分から、伸びきつて、種になつてゆく末まで、一莖の姿もよければ、多ければ多いほどよく、花
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