たほどの苦労をして来て、くされ半纒に縄帯ひとつで、鉱夫と一緒になって働いた人であるし、夫人は夫を信頼して、狐狸の住家だった廃鉱の山へ来たという、東京生まれの女性であっただけに、大変あたしを愛《いと》しんでくれた。
――はじめ聞いていたことと、あんまり違うので――と夫人は言われた。他の者なら、辛抱なさいと言うのだが、あなたにはそうは言わない。すこしも早く、あなたは自分だけになる方が好い。もう山になんぞいないで、十分に自分の道へ出た方が好い。
そう言われて、はじめて道が開けた気がしだした。あたしはこの山住みで、小さな作《もの》を投書して特賞を得たりしたが、これは実力がどの位な辺かという試しにしたことで、これならなぞというたかぶった気持ちではすこしもなかった。
東京へ帰ると、舅が亡くなったりして、離婚のことを言い出せなかった。だが、ぽつぽつと書くものは通るようになって来て、今度は離婚に、婚家の方で意地悪をはじめ、かなり苛酷な目にも逢ったが、その為あたしの健康がおとろえ、もはや生きまいと思われたほどだったので、肺病ではしかたがないと、漸く事がきまった。
その前にあたしは家を出て、実家の
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