い書籍《ほん》も買って来てくれた。あたしはまた、解ろうがわかるまいがむずかしいものに噛りついて、餓えきった渇きを癒した。だが、道楽息子が直きにまた勘当されたとき、この時こそ自分だけで自分を生かす時機《とき》がきたと、離婚のことを言い出すと、先方の親たちは妙なことを言い出した。悴の嫁にもらったのではない、家の娘にもらったのだ。だから、何処へいっても嫁とはいわなかった、娘だといってきていた、実子の娘だと言っていたではないか、帰さないと。
あたしは世間知らずだった。自己のことにばかり目がくらんでしまって、明瞭《はっきり》した眼をもたなかった。真の愛情がないものが、なんでそんなことを言うのか――変だとは思わないで、ただ厭だとばかり思った。だから、厭さが昂じて死にそうな病気ばかりした。生まれた土地に名声のある我が家を、古鉄屋から紳商になりかけた家が、利用するのを察知しなかった。父の身辺にすこしの危惧も警戒もしなかった。
父は、前にも言った通り、自由党の最初に籍をおいたが、脱党して以来口ぐせのように、法律も身にあった職業ではない、六十になったら円満にこの家業もやめると、子供であったあたしなどに
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