盥《かなだらい》へ入れて捧げてゆく。今日日《きょうび》は、花柳界もどきの、そんなふうな磨き道具を素人でも持つが、町家《ちょうか》の女房ではまずない図だった。
 おおかめさんは、何時も、大勢の娘のうち二、三人を連れていた。娘たちは醜《みに》くかったが、父親に似て色の白いのや、母親似で太く逞《たく》ましいので、とにかく四隣を圧し、押えに番頭さんの女房である痩《や》せた、ヒョロヒョロの青黄ろい、皺《しわ》の多い、髪の毛が一本ならべの女が附いてゆくのだ。
 その番頭さんの女房も、お附女中のおとのさんも、おおかめさんの近親であるから、おおかめさんの豪勢ぶりも粗豪で異色があり、せまい小川湯は、たちまちこの一群に占領され特設のお風呂場のごとくなってしまう。
 元来、大所《おおどころ》は、みんな自宅風呂があるのだが、土一升、金一升の土地に、急にのさばり[#「のさばり」に傍点]出したものには、金づくだけではその設備をする場所がないのだ。で、豪気な、おおかめさん一家は、けちけち町湯にゆくのが業腹《ごうはら》で、白昼大門通りを異風行列で練りだすのだった。ときによると、あんぽんたんまで、その人数に加えようと、
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