分でも少々悲観していたのをしっている。舞台へ出るときまりわるがって、うつむいて、モヅモヅとものを言う。まっすぐに述べてしまうとまっすぐにひっこんでゆく――見物は気の毒そうな顔をする。お父さんが働きてで、人気ものだけに、若い伜《せがれ》の人気のないのが、一層はかなげに思われたのだった。
「銀行家にしようと思うのだが――」
と、あの舞台では睨《にら》みのきく眼が、慈眼というように柔和になって、楽屋では、これも大町人か、それこそ、そのころの、あまりこすくない銀行頭取の面影《おもかげ》をもったお父さん左団次がゆるやかに話す――
ぼたんが小米《こよね》になった。おしょさんのうちへあそびに来た。いつも楽屋や舞台で、知りきった顔なのに、この少年は背広を着てきて、キチンと座っている。一言も口をきかない。廻りのものやおしょさん夫婦は種々《いろいろ》骨を折ってしゃべるが、かんじんの少年客はムヅとしている。そのくせ帰ろうともいわない。
そこでアンポンタン、大成した彼の舞台を見、舞台の悪党ぶりを見、息をひいて、白い眼をむいて、顎《あご》でしゃくった太々《ふてぶて》しさを見ると、ウフッという笑いが、表面へ出
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