が多かった。
この渡船は、助さんという前の小屋にいた若い船頭さんのために、父がすこしばかり金で手伝ってやってはじめさせた渡しだった。人通りのない父の家の門の柳が、わたし場の目じるしだった。さて、その三人の幕末の残り者が縁近くに碁盤を据えると、汐潮《しお》があげてきて、鼻のさきをいせいのいい押送りの、八丁|艪《ろ》の白帆が通ろうと、相生橋にお盆のような月がのぼろうと、お互が厭《いや》がらせをいいながら無中になっている。父は、島人から村長さんと名づけられているほどのんきで飄逸《ひょういつ》な、長い白い髭《ひげ》をしごいている。木魚の顔のおじいさんはムンヅリと、そのくせゲラゲラと声をださないで崩れた顔を示す。つまみよせたような眼の、キンカン頭の藤木さんは、俳諧《はいかい》でもやりそうな渋仕立《しぶじたて》の道行き姿になって、宗匠|頭巾《ずきん》のような帽子を頭にのせている。そして懐中時計を三十分に一度はきっと出して、ただ眺める。竜頭《りゅうず》をいじって耳へもってゆくしぐさを繰返す――
この碁打ちたち、かたちはさも巧者でありそうだが、だが、ある折、妹の婿の若い、海軍のヘッポコ少尉がこの三
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