前の札差《ふださ》しに、来年さらいねんの扶持米を金にして貸せといたぶりに行く。札差し稼業はもとよりそういう放埒《ほうらつ》な、または貧乏な武士《さむらい》があって太るのだ。貴下《あなた》には泣かされますといいながら絞る。いくらにでも金にすればよいので、時価なぞにかまっていないよいお得意なのだから、彼らの番頭はうやうやしく町人|袴《ばかま》をはき、手代を供《とも》につれて香奠《こうでん》をもって悔みにくる。おなじ穴の狢《むじな》友達が出て殊勝らしく応待して、包んで来た香奠《こうでん》の包みをもってはいると、そんな事は知らない姉じゃ人が、日頃厄介をかける札差の番頭が来たというので挨拶に出て、すっかり巧《たく》みの尻《しり》が割れ、ならずものたちは裏門から飛出してしまう――
そんな話を藤木さんは自分でも面白そうにはなす。尤《もっと》もそれは柳橋にすむようになって、昼も酒盃《さかずき》をもっていられるようになった、ずっと晩年のことではあるが――
柳橋の角に、檜《ひのき》づくりの磨きたてた造作の芸妓屋を、姉娘の旦那《だんな》に建てもらい、またその隣家《となり》を買いつぶして、小意気な座敷を妹
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