。敷居一つまたぐと次の間は妹の家作で、入口の方の家が姉娘の家作、どっちの道、角家の磨きあげた二階家つづきで、お麻さんの芸妓名《うりな》をついだ妹が主で、大勢の抱妓《かかえ》がいた。妹は築地のサンマー夫人のところへ会話を習いにいったりして、二階の一間には床の間に花あり、衣桁《いこう》あり、飾り棚があり、塗机があり、書道の手本と硯《すずり》が並べてあるという豪奢《ごうしゃ》な貴婦人好みであった。
産むなら女の子をうんでおけと――むべなるかなで、チンコッきりおじさんはその家のお父さんとして死んだので、実に大層もない葬式の列が編上《あみあ》げられて、死に果報なこととなったが、同時にこそばゆい華やかさでもあった。
最もその時分、角力《すもう》の親方だとか顔役だとか、人気役者とかいえば、そうした突拍子もないお祭りさわぎの葬式もあったが、チンコッきりおじさんを知っているものには不思議な微笑をもって送られた。小禽《ことり》が何百羽はいっていようかと思われるほどの大鳥|籠《かご》、万燈《まんどん》のような飾りもの、金、銀、紅、白の蓮《はす》の造花、生花はあらゆる種々な格好になってくる。竜燈、旗、天蓋
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