ながれやま》みりん瓶入の贈物《つかいもの》をもってくる彼女の背中を目で撫ていたが、彼女におとずれた幸福は、彼女にはあんまりけばけばしい色彩なので、信実はやっぱり苦労が絶《たえ》ないであろうと痛々しかった。なぜなら、らんまんたる桜の咲きさかる春のような、または篠《しの》つく豪雨のカラリと晴れた、夏のような風情《ふぜい》は彼女にはそぐわなかった。もっと地味で、堅実な愛が、彼女を待たなければ真の幸福とはいえないように思えた。私が彼女にあうことはより遠々しくなった。
放蕩児《ほうとうじ》が金を散じる時の所作《しょさ》はまず大同小異である、幇間《たいこもち》にきせる羽織が一枚か百枚の差である。芸妓のとりまきが一流と二流の相違は、料亭《ちゃや》待合《まちあい》の格式、遊ぶ土地、すべての附合の範囲と広さにおよぼしている。中村鴈治郎《なかむらがんじろう》が東都の人気を掴得《かくとく》しようとすると歌舞伎座から「まだ旦那のお招きをうけないが――」と頼みこんでくる。摂津大掾《せっつだいじょう》が来た、何が来たと東京の盛り場の人たちが大阪でうけるお礼のかえしを、一手に引受けるほど遊びに顔を売った旦那を彼女
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