っているので、片っぽひっくりかえって団十郎めっかちが転化したものかどうか、それとも他に由縁《ゆえん》があるのか知らない。
 それはどうでも好いとして、古屋島氏の顔に、汚《きた》ないキシャゴの道十郎めっかちがついているのだった。おまけにそれがばかに大きい。濁って、ポカンと開いた黄色い中に、眼球《ひとみ》が輝きもなく一ぱいに据って動かずにいる。盤台面《ばんだいづら》で、色が黄ばんだ白さで、鼻が妙に大きい。ザンギリで、下を向いていて、ヘエ、サヨサヨという時だけ眼球を上にあげる。
 書生さんといったからとて、五十近かったかもしれない。黒い前掛けをしめて、角帯《かくおび》に矢立《やたて》をさしている時もあった。
「あれはなんなの?」
 アンポンタンがそう訊《き》いたことがある。
「あの人は公事師《くじし》といって、訴訟がすきで――三百代言《さんびゃくだいげん》……」
 アンポンタンは子供心にこう理解した。代言人のとこへくるから三百代言?
 三百人は来はしないが、そういう通いの書生さんは大勢来た。よく考えて見ると、自分たちの手におえなくなったものを担ぎ込んできて、便宜上、先生先生とやって来たものと
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