《くれ》のお席書《せきが》きの方が、試験よりよっぽど活気があった。十二月にはいると西《にし》の内《うち》一枚を四つに折ったお手本が渡る。下の級は、寿とか、福とか、むずかしくなると、三字、五字、七字――南山寿とか、百尺竿頭更一歩進《ひゃくしゃくかんとうさらにいっぽをすすむ》とかいうのだった。
課業はすっかりやめてしまって、その手習にばかりかかる。そしてお墨すりだ。
――あたしのは丸八の柏《かしわ》墨だ。
――あたしのは高木のいろは墨だ。
――だめだ、いろは墨は、弘法様のでなくっちゃいけない。
そんな事を各自《てんで》に言って墨を摺《す》る。短かくなると竹の墨ばさみにはさんでグングンと摺る。それを大きな鉢に溜《た》めてゆくと、上級の子がまたそれを濃《こ》く摺り直す。
――こうやると好《い》い香《におい》になる。と梅の花を入れる子もあった。早く濃くなるようにと、墨をつけて柔らかくしておくものもあった。
――ばりこ[#「ばりこ」に傍点]になるよ。とそれを嫌がるものもある。
商家《しょうか》の町なので年の暮はなんとなく景気がよい。学校へも、お砂糖の折だの、みかんの箱だの炭俵だの、
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