供餅《おそなえ》だのが沢山もちこまれる。お席書がすめばその日から休みで、かえりには蜜柑《みかん》がもらえる。
二枚書いて、一枚は学校にずらりと張りつけ、一枚は家へもって帰る。親たちは、居間や、客間や、または、あたしの家などは玄関へ自慢で張る。
この秋山先生も書《かき》もらしてはならない人だ、学校そのものもまた! そして年の暮のことどもも――
柏墨の「丸八」は大伝馬《おおでんま》町三丁目の老舗《しにせ》で、立派な土蔵造《どぞうつ》くりの店だった。紀文に張りあった奈良奈の家《うち》だのなんのときいていた。「大晦日草紙《おおみそかぞうし》」とかいったように覚えているが、くさ双紙《ぞうし》に、若い旦那《だんな》の色里《いろざと》通いを、悪玉がおだてている絵があって、お嫁さんが泣いているのを見たとき、丸八の先代のことだとかいった。後に、春の絵の本を見たら、香字という大尽《だいじん》に張りあう高総という大尽のことがあった。それも多分「丸八」のはなしだとかきいていた。その事実は知らないがとにかく、そんなにまで豪奢《ごうしゃ》な、派手なことがあったうちと見える。
底本:「旧聞日本橋」岩波文庫、岩波書店
1983(昭和58)年8月16日第1刷発行
2000(平成12)年8月17日第6刷発行
底本の親本:「旧聞日本橋」岡倉書房
1935(昭和10)年刊行
入力:門田裕志
校正:小林繁雄
2003年4月2日作成
青空文庫作成ファイル:
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