上へ三日月形の前髪の毛をおいた。それまでは中剃《なかぞ》り(頭の真ン中へ小さく穴をあけて剃っていること)をあけたおかっぱで、ヂヂッ毛とおやっこさんをつけていた(ヂヂッ毛は頸《えり》のボンノクボに少々ばかり剃《そり》残してある愛敬毛《あいきょうけ》、おやっこさんは耳の前のところに剃り残したこれも愛敬毛)。そのほかは青く剃りあげていたのへ、小さいお椀《わん》を伏せて恰好《かっこう》のよい三日月形を剃り残したのだ。その時向うのせんべやのお婆さんが、剃刃をあてるのに動かないようにと、おせんべにするふかしたしん粉《こ》をもって来てくれて、あたしの祖母が、狆《ちん》を拵《こし》らえて紅《べに》で色どってくれた。それに味をしめて、さかゆきをするたんびに、おせんべやの店へとりにゆくと、首振り婆さんは、私の家の門の桜の木の上へ出そめた三日月を指さして、
「のん、のん、此処《ここ》にも、あすこにも。」
と、あたしの頭を指で押して、空をも指さすのだった。
 お婆さんの息子は車力《しゃりき》だった。あたしは鹿《か》の子《こ》絞《しぼ》りの紐《ひも》を首の後《うしろ》でチョキンと結んで、緋金巾《ひかなきん》の腹
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