、小さい出入口がある。女たちがそっと外出《そとで》をする時とか、内密《ないしょ》の人の訪れるところとなっている。だからとても淋《さび》しい。私の家は右隣りが糸問屋の近与の奥蔵、左側は通りぬけの露路で、背中は庭の塀の外に井戸があり、露路を背にした大門通り向きの幾軒かの家の、雇人たちのかなり広くとった共同便所があり、それを越して表通りの足袋問屋と裏合せになっていた。左横の大門通り側には四軒の金物問屋――店は細かいが問屋である、この辺は、鐘一つ売れぬ日はなし江戸の春と、元禄《げんろく》の昔|其角《きかく》がよんだ句にもある、金物問屋が角並《かどなみ》にある、大門通りのめぬきの場処である――その他に、利久という蕎麦屋《そばや》、べっこう屋の二軒が変った商売で、その家の角にほんとに小さな店の、ごく繁昌する、近所で重宝《ちょうほう》な荒物屋があった。小さな店にあふれるほど品が積んであった。
 煩《うる》さくはあるが、もすこし近所の具合を言っておきたい。荒物屋の向っ角――あたしの家の筋向いに横っぱらを見せている、三立社という運送店の店蔵は、元禄四年の地震にも残った蔵だときいていた。左横に翼がついてい
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