天保銭《てんぽうせん》で、それに丸いので穴のあいてるのを一つつけると、赤く光った一銭銅貨とおんなじだと、繰《くり》かえしていった。でも、あたしにはあんまり必要がなかった。それよりも、お其の紹介で友達になった子たちが、自分の家《うち》の裏庭でとった、蝸牛《まいまいつぶろ》を焼いてたべさせたりするのを、気味がわるくてもよろこんだ。
 この子供仲間は、男の子も女の子もみんな顔色がわるかった。どの子も大きな眼をして痩《や》せていた。小僧さんかお附きの女中がいるので、それらの眼をしのんで、こっそり集《あつま》るのを、どんなに楽しみにしていたか知れない。だから裏から裏と歩いた。村田――有名な化粧品問屋――の裏を歩くと、鬢附《びんつ》け油を練《ね》る香《にお》いで臭く、そこにいる蝸牛《まいまいつぶろ》もくさいと言った。鍛冶七《かじしち》――鍛冶もしていた鉄問屋――の裏には、猫婆《ねこばばあ》がいるということなど、いつの間にか大人《おとな》よりよく知ってしまった。
 猫婆さんは真暗な吹鞘場《ふいごば》に――その家《うち》も大かた鍛冶屋ででもあったのであろう。大溝《おおどぶ》が邪魔をして通り抜けられない
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