、京都へゆくことがあれば、その新築を、ぜひ見せて頂かうと自分勝手に樂しんでゐたからで、いかにも豐富といふこと――この世にも、こんな好いことがあるのかと心樂しく思はせられたからだつた。
その話といふのは、市區改正に追れた榊原畫伯が、紫野大徳寺孤蓬庵の隣地を敷地に選んだことからはじまる。紫野といふ土地からして好いなあと思つた。もとから好きなところだつたが、先年、大徳寺|塔中《たつちう》聚光院に一夜を御厄介になつてから、樹々にわたる風を、齒にしみるやうに思ひ出す土地だ。その敷地へ移す庭木といふのが、百萬遍のお寺の西側が、これも市區改正なので、椋の巨木何十本かが、薪屋に捨賣にされるところを、七本手に入れる。しかもこの椋の木、何百年かの星霜をへて一抱へも二抱へもあつて木振りよく、巨木移植法にも成功して植つけると、大徳寺境内の欝蒼たる森につづいて、どこがどこか、けじめのつかぬ幽邃な廣々とした庭になつたといふ。
そこで、庭石も、それに釣りあはねばならぬ。鞍馬石をきらつて、北山あたりを探すと、奇特な石山の持主あらはれ、我山の石ならどれでももつてゆけ、代價は入らぬ、汝の繪をよこせ、もつていつた石の繪
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