夏の夜
長谷川時雨
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)更《ふ》けて
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)春子|畫孃《ぐわぢやう》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「虫+斯」、第3水準1−91−65]
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暗い窓から
地球が吸ひよせる雨――そんなふうな降りだ。
六十年ぶりだといふ暑熱に、苦しみ通した街は、更《ふ》けてからの雷雨に、なにもかもがぐつすりと濡れて、知らずに眠つてゐる人も快げだ。
叩きつける雨の勢ひは、遮《さへぎ》るものにあたつて彈《はじ》きかへされ、白い霧になつてゐる。木の葉は――青桐の廣葉《ひろは》は、獅子がたてがみをふつてゐるやうに、葉を立てて、バリバリと、貪焚《どんらん》に、雨にぶつかつてゐる。
私は、硝子窓を細く細くあけ、口をあけて繁吹《しぶ》きと一緒に涼氣《りやうき》を吸ひ込んだ。十分にといひたいが、長くはあけてゐられないのは次の間に病む人がゐる。
私が、肘かけ窓の柱に凭れて、一人所
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