傘、三ツ杵の白ぬき、または三ツ柏や瓢箪の染めてある稽古本入れのつばくろぐちをかかへてゐる。(つばくろぐちは稽古本を入れる袋)
 いま隣室《となり》の「女人藝術」編輯室には、いつものみんなの外に珍らしいお客さんたちも見えて、襖一重むかうでは、將來の女人としてのさま/″\な希望が机の上に、人の口に盛んである。そのとなりではかうして、一時代も二時代も前の、一地方的な、東京下町の娘のことをあたしは思ひ出さうとしてゐる。このあわただしい氣持ちで何が思ひだせよう。
[#地から1字上げ]――昭和四年十月・サンデー――



底本:「隨筆 きもの」實業之日本社
   1939(昭和14)年10月20日発行
   1939(昭和14)年11月7日5版
初出:「サンデー」
   1929(昭和4)年10月
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2009年1月17日作成
青空文庫作成ファイル:
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