の代表になつてゐる扮裝《おつくり》は、白子屋お熊や、八百屋お七であるが、あれは丁度その眞中をいつてゐる好みだといへる。
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黄八丈に黒繻子の襟、緋《ひ》鹿《か》の子の半襟、絞りばなしの鹿の子の帶。結綿《ゆひわた》島田に朱ぬりの差櫛、花簪。
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 出來れば、下町生れの娘はみんな、そのおつくりを好んだに違ひない。また、似よつたおつくりもしたかつたであらう。だが、江戸時代でも、明治のはじめでもさうであつたであらうが、あたしの知つてゐる下町の娘はもつと働いたから、あんなゾベラ/\とした姿をしてゐなかつた。
 一體に侠《きやん》なとりなり[#「とりなり」に傍点]――侠《きやん》とはフラツパーとはいささかちがふ。侠氣をもつ、ハツキリとしてゐる。ものいひも、ものごしも――それが轉じて、おきやんな(お轉婆、もしくはあばずれ)鼻つぱりばかりの腹のないものにもなつたが、由來は、生々した、清新な、瀟洒と清楚をたつとんだ好みである。町奴ごのみである。で、どこやら男性的で、少年の美――若衆だちといつた顏や、眉や、眼のはりや、キビ/\した、溌剌さをふくんで、いはゆる張りの
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