いているが、竜燈は赤く華やかだ。
「青い月。」
と、モルガンは、窓へお雪を呼んだ。
「こんな月、見たことありますか。」
 え、とお雪はうっかりした返事をしていた。洛外《らくがい》嵯峨《さが》の大沢の池の月――水銹《みさび》にくもる月影は青かったが、もっと暗かった。嵐山の温泉に行った夜の、保津川《ほづがわ》の舟に見たのは、青かったが、もっと白かった。
 宇治橋のお三の間で眺めた月は――といいたかったが、それは誰と見たときかれるのが恐《こわ》くって、お雪は、ふっと、口をつぐんでしまった。

 お雪に、竜宮城へ泊ったような夜が明けた。
 お雪が長く見なれて来た、京都|祇園《ぎおん》の歌舞の世界は、美しいにはちがいないが、お人形式の色彩だったから、お雪はあんまり明澄すぎる自然に打たれると、かえって、覚《さ》めているのか現《うつつ》かわからない気がして、夢幻境にさまよう思いがするのだった。
 全く素晴しい朝だった。天地の碧藍《みどり》が、太陽の光りを透《とお》して、虹《にじ》の色に包まれて輝いている。
「海の向うの、ずっと先方の方は何処ですの。」
「この|碧玉の岸《コート・ダジール》にも、椰子《
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