―」
モルガンが父母と住んだ、壮麗な館《やかた》は、レックスにあったが、彼は新妻と暮すには、パリが好いと言った。
「アメリカでは、仏教――お釈迦《しゃか》さまの教えは異教というのです。着物を着ている女は、異教徒だとやかましい。」
それもお雪には、わかったような解らない、のみ込みかねたものだった。
開けたアメリカにもまた、古い国の家柄とおなじようにブルジョア規約があるのだった。四百名で成立っている紐育金満家組合が、まず、ジョージ・モルガンを除名し、モルガン一家の親戚《しんせき》会では、お雪夫人を持つ彼を、一門から拒絶した。
お雪の生家では、出来ない相談として、モルガンに養子に来てくれといったが、モルガン一族は親類|附合《づきあい》すらしないというのだ。
「日本であそんで、フランスへ行こうよ。」
「ええ、丁度お里帰りですわ。」
お雪は、日本へ帰れるのが嬉しかった。米国の社交界から、漂泊的な生活をしている上に、クリスチャンでない女と結婚したという理由で、非紳士的行動だと、追われるように立ってゆく、モルガンの悲しい心は知りようがなかった。
あの草川《くさかわ》のほとりに仮住居《かり
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