っているものが、心の中で清算しきれないうちに、結婚予定は進んでいった。
四万円は結納金《ゆいのうきん》ということになった。お雪は完全に妓籍を脱したのだ。
世間というものはおかしなもので、胡弓芸妓のお雪も、さほどパッとした存在ではなかったのに、モルガン根引きばなしが起ってから、メキメキ売れ出してきた。
しかも、だんだん金高《かねだか》が騰上《あが》ってゆくのにしたがって、人気が上っていって、一流のお茶やさんから引っぱりだこにされていた。勿論《もちろん》、一流のお客さんたちは、評判になった妓《こ》の顔も知らないとあっては恥辱《はじ》とばかりに、なんでもかんでも呼んで来いということになる。お金持ちは我儘《わがまま》だから、そうなると、あっちの茶屋へいっているといえば、なんでも貰《もら》って来いというのが、古来、廓《くるわ》の女に関しては、ことさらに定法《じょうほう》のようなお客心理だ。
それが、京都の客ばかりでなく、大阪からも来る、東京のよんどころない方《かた》だからちょいと来ておくれというふうにもなって、三、四日前から口をかけておかなければ、お雪に座敷へ出てもらえないというようにな
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