た、面白がって、あてと、モルガンのことばかり書き立てずに、親身に考えておくれやす。あて、どうしても嫌どす。」
 縮緬《ちりめん》のじゅばんの袖口がちぢれるほど、ハンケチとちゃんぽんに涙を拭《ふ》くのだが、相手は、
「そんなことは、他《よそ》へいっていえよ。僕が泣かれたって、どうにもならない。お母さんたちのいう通り、うんと吹っかけて見るんだな。本当に惚れてなきゃ、いくら米国《アメリカ》人だって酔狂で大金は捨てやしまい。」
 お雪は、そんな相談を、心から思っている、修業盛りの学生にきかせて、頭を乱させる気はないので、その人には、なるべく、きかれても隠すようにしているのだった。
 で、正妻でなくっては――から、養子に来る気ならば――になり、最後に四万円と切り出した。
 四万円――現今なら、その位のお鳥目《ちょうもく》ではというのが、新橋あたりにはザラにあるということだが、日露戦役前の四万円は、今からいえば、倍も倍も、その倍にも価する金《かね》の値打があったのだろう。赤坂の万竜《まんりゅう》は、壱万|円《りょう》で、万両の名を高くしてさえいる。
 祇園のある古い女《ひと》がいった。
「世界大戦
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