舞妓姿は、誰《た》が家《や》の姫君かと見とれさせるばかりだった。そうした舞妓時代を経ないものは、祇園の廓内《くるわうち》でも好い位置を保てないのが不文の規則なのだ。出入りのお茶やにも格があったのだ。
十九のお雪に、小野亭の仲居《なかい》がささやいた。
「あんたを、あの外国人が、ぜひ梅《うめ》が枝《え》に連れて来ておくれと言うてなさるが――」
梅が枝は円山《まるやま》温泉の宿だった。
「モルガンさんいうて、米国の百万長者さんの、一族の息子さんやそうな。」
日本の春を見に来たモルガンは、沢文《さわぶん》旅館の滞在客で金びらをきっていた。
二
金持ちや美男に、片恋や失恋などがありましょうかと、簡単にかたづけられてしまいそうだが、恋というものの不思議さは、そこだといえないでもない。
およそ、見るほどのものを陶然とさせ、言い寄られた女性たちは、光栄とも忝《かた》じけなしとも、なんともかとも有難く感じ奉《たてまつ》ったあの『源氏物語』の御《おん》大将、光る源氏の君の美貌《びぼう》権勢をもってしても、靡《なび》かなかった女があったと、紫式部が、当時の生活描写を仔細《しさい
前へ
次へ
全41ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
長谷川 時雨 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング