も積立をする。或は最初は無給かも知れない、又は幾錢かを受取る千兩役者も出來るかも知れない。――しかし、料理人もボーイも、切符賣りも道具方も、むだ[#「むだ」に傍点]をはぶけば――つまり怠けてはゐられないと思へば、不必要な懷手をしてゐるおかひこ[#「おかひこ」に傍点]ぐるみの道樂者は退いてしまふ。不入りな高價な興行をつづけるよりは、一年三百六十五日の日はかなりなものを運ぶから三十錢滿員の方が、或は遙《はるか》によい成績をあげないとはいへない。そして利息をもつていつてしまはないから、關係者たちは直に利益をうけることが出來る。そこで、雇《やと》はれた者でない本當の親切が劇場の全部にみなぎる。
で、その配當は見物の方へも割り戻されてよいわけであるが、數多き人を一人づつ記入しておく事は出來ないから、その配當をもつてますます設備《せつび》をよくしなければならない。雨の日雪の日の自動車は、本所行、市外行、深川行といふ風に、一目でわかるやうに赤い塗《ぬり》や青い色で現はし、なる可く無料で老幼婦女から送り出すやうにする。自動車の厄介にならない男子たちには地下室に理髮や浴場を、入口には靴磨きを――これは
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