、過つた結婚を、平氣でさせておいて、家の娘は不運だといひ、お前は運のない生れつきだ、折角よいところへ嫁にやつたのに亭主運《ていしゆうん》がわるくて、死別れてしまふなんてと、さも、娘が婿を殺してでもしまつたやうに、生みの母親さへいふのをはばからないほどであつたから、先方は、こんな哀れな犧牲者へ對してさへ情用捨はなかつた。やはり息子の場合と同じく、その腸結核の病者へ對して、跡目相續がしたいならば、田舍から遠縁の男性を探すといふのだつた。もとよりそれは養子で、殘つた嫁にめあはせようといふので、息子たちに懲りたから、こんどはただ丈夫一式で、字なんぞは讀めなくてもよいといふのが婿の資格條件だつたが――流石に嫁になつた娘の兄妹が、勃然と反對した。なんにもいらない、體だけ歸へせと爭つてゐた。角店の大構《おほがま》へも、大名邸ほどの廣い土地も家作も、大資産であるだけ負債も多く、家も子供たちにおなじにすつかり蟲くつてゐたのだつた。そんな煩《わづら》はしい家庭で、無智な婿をもたせられる、病女は、誰が造つたのだといはざるを得ないのに、これもまた、結婚披露宴に、例の「郭子儀」の幅をかけたからだと、變なところへ
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