部隊大原隊はあたかもハシ歩の様なもんである。
北支の原野に乗り出したものの、相対する敵、歩を突いて来んもんじゃから、マが持てん
そこで連日演習である、専ら童心にかえッて戦争ごッこをやッている
王手飛車があろうと桂馬のフンドシがあろうと端歩は動かんモノである。
     ――――――――――――
貨物列車の中、夜、すしづめの兵隊
入口の扉の処に将校来る。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
 「一言注意して置く、此の辺り一帯は尚敗残兵が徘徊している。昨夜も此処から三ッ目の駅が襲撃を受けて数名の戦傷者を出して居る。皆弾薬を腰からはなしてはいけない。(装具をとッてはいけない)銃を側へ置く事。いいか若し襲撃を受けても命令がある迄出てはいけない」
○汽車の汽笛
 描写若干
○ロングで月明の原野を走る列車
○貨物車の中、がやがやしている。
 浪花節をやり出す。
 「寒い」と上衣を着る
 「おい、俺の上衣じゃ」
 「儂のは」
 「お前のは……」
○芝居の台詞を活弁の口調で言う兵
 「近衛後備歩兵第一聯隊長須知源二郎聯隊を代表して謹んで奏上し奉る。臣等つとにチョケンを忝のうし、皇恩に浴する事
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