毎日せんぎりとかんぴょうを喰ッて、馬臭い船底に暮す
 十七日、遂に伝馬に乗り換えて太沽上陸
 初めて支那の土を踏む
 (二カ月前に我軍の爆撃占領した支那の造船所、砲台、兵営)
 太沽二泊、船で塘沽に至り、更に貨物列車で天津東站駅に到着
 支那旧城内の南関大街の民家に宿営
 狭くて手足を延ばしては寝むれない。

 上着を間違えるギャグ(ラストシーンによし)
 「煙草ないか」
 「うん、ないンだ、おや、おいあッた、あッた」
 われもわれもと煙草をとる
 「おい○○ッ、お前誰の上衣着てるンだ」
 「えッ、あ、そうか」
○上衣を探してる男を見て慌てる
 「おーい旅団長、旅団長喜べ」
[#ここで字下げ終わり]
旅団長と呼バレル男
ヒンパンに字を聞き乍ら手紙を書く

去る二十七日石家荘に到着。
南に向って行進する事三日。片桐部隊の屯する○○に至る。この辺の新しき土はホコリッぽくッて歩きにくい。
 前線部隊に編入。敵影を認めず。
     ――――――――――――
将棋の歩にもいろいろあるが
敵の王頭にピシリッと捨身に打たれる歩もあれバ
亦、棋士が手に困ってひょいと突く香の上の端歩もある。
吾が○○部隊大原隊はあたかもハシ歩の様なもんである。
北支の原野に乗り出したものの、相対する敵、歩を突いて来んもんじゃから、マが持てん
そこで連日演習である、専ら童心にかえッて戦争ごッこをやッている
王手飛車があろうと桂馬のフンドシがあろうと端歩は動かんモノである。
     ――――――――――――
貨物列車の中、夜、すしづめの兵隊
入口の扉の処に将校来る。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
 「一言注意して置く、此の辺り一帯は尚敗残兵が徘徊している。昨夜も此処から三ッ目の駅が襲撃を受けて数名の戦傷者を出して居る。皆弾薬を腰からはなしてはいけない。(装具をとッてはいけない)銃を側へ置く事。いいか若し襲撃を受けても命令がある迄出てはいけない」
○汽車の汽笛
 描写若干
○ロングで月明の原野を走る列車
○貨物車の中、がやがやしている。
 浪花節をやり出す。
 「寒い」と上衣を着る
 「おい、俺の上衣じゃ」
 「儂のは」
 「お前のは……」
○芝居の台詞を活弁の口調で言う兵
 「近衛後備歩兵第一聯隊長須知源二郎聯隊を代表して謹んで奏上し奉る。臣等つとにチョケンを忝のうし、皇恩に浴する事、此処に年あり。
 今や征露の大命を拝し、報恩の機正に至れるを喜び、昨十四日一同勇躍して常陸丸に投ず。而るに今朝来、濃霧四辺を閉ざしシセキを弁じ難き趣きありしが、正午前、玄海洋上に望みし時忽ち右舷に当り大艦影を認む。
 偵察すればロシヤ、グロンボイ、リュウリックの三巡洋艦にして此の時既に我が友船泉丸は撃破せられ左渡又同じ運命に陥入らんとしつつあり」
 突然に機関銃の音、
 一同はッとなる。
 静寂。
 やがて都々逸を歌い出す。
 歌の終った処で
 原野走ル汽車。
 銃声と汽笛。(F・O)

 「おい親友、鉄カブトかぶれよ、危ねえぞ」
 「何言ってやんでえ
 可笑しくッて鉄カブトが冠れますかッてンだ」
 「鉄砲の弾丸は頭ばかり当たるッて訳のもんでもあるめえ、手に当る事もありゃ足にも当らア鉄のテッ甲脚絆でもはめてきアがれ」

○帽子の中へ写真を入れて置く兵隊。
○鉢巻をしたがる兵隊。
 坊主の二十の入墨してる。

 「おや、帽子が変ッてるぞ、Aの奴だな」
 「班長殿、A居ませんが、あの野郎、自分の帽子を間違えて、あ、それ」
 「写真をもう一枚、送って貰うんだな」
 煙草出す。呑まない。
 たん架ではこばれて行くA。

 「空には今日もアドバルンと来やがらア」
 装甲自動車の列。
 行軍する歩兵。
 三分早い
 三分ぐらい
 三分あれば師団の編成が出来る。

 「おい戦友、煙草一本呉れ」
 他の部隊の兵隊と逢うといつも斯う云う。

 彼奴は、煙いのなれとるよ
 養子じゃもの

 「北支の花と散ッた勇士の家庭訪問
 ○○○○氏厳父○左衛門、暗然として語る」
 「よせやい」
 「許婚○○さん、けなげにも語る」
 「馬鹿よさねえか」
 「あの人は……」
 班長○○伍長又語る
 「彼は……」
 此の頃、現地より特電

○壁の戯書
 チャカ、チャカで
  手まね、口まね
   チャン料理

 散兵が歩く
   チャブチャブと水筒の水の音
   伏線として
   水筒を振ッて水を呑む

 石家荘と書いたガス灯割れている。

○軍宣撫班の話
 五色国旗を見せて、これは君たちの国の国旗か、然り
 青天白日旗でワナイカ、違う
 蒋の悪政を云ッて……
 日本の軍隊ヲ恐れてはいけない
 逃げる必要はない
 家に居なさい
 田畑を耕していた人は
 その儘、仕事を続けなさい
 宣撫班が部落民を集め
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