病勢は変りなく、熱はなくなりましたが下痢は酷くおもゆとミルクでアゴ伸びるばかり(お粥をちょいと食うともういけません、情けない腹になりやがったものです)けれど懸命に頑張って居りますから此の手紙がそちらへ着く頃には(それが一ヶ月もかかるのでしたら)退院して本隊を追ッ掛けている筈です。御心配御無用。
本隊は最近行動を開始した模様です。多分再び南支方面へ行くのだろうと思います。とても今年中には帰れますまい。……(中略)開封と云う町は想像以上に立派なところで、何でも町の有力者が支那軍の隊長に何万かの金を与えて軍隊を町から撤退させたので町も余り荒れてないそうです。支那で一二と云う支那料理店があると云う話です。退院の時は話の種に出掛けてやろうと思ッて居ります。熱が無くなると忽ち猛烈な食い気です。あれが喰いたいこれが食いたいと浅間しい。次にそのあれやこれやの一部分を書き並べます。急ぎません退院迄にも一度お便りしますからそれはお読みになってからで結構ですからお送り願います。(金は憲坊に頼みました)先づ平野屋のいもぼうの缶詰(ッてのがあるそうです)黒のとろろこぶ、花かつを、懐中じるこ、甘酒の素、なるせの漬物とほーじ茶。ふぐのひれの干したの(大丈夫ですかな?)[#地から1字上げ]以上
なるべく缶に入れて小包は厳重にお願いします。毎度、御面倒ばかりお掛けして相済みません。協会の諸兄によろしく(八月十五日)
それから書き忘れましたが何か本を一冊(何か僕に「やッたらどうや」とお考えになるものがありましたら結構ですが……)
これだけ書くのに便所へ油汗かきに行く事二回、これから第三回目に参ります。一回卅分はかかります。どうも汚ない話で、お許し下さい。
[#「註」略]
(藤井滋司 宛)
(一)[#「(一)」は縦中横] 将棋の【歩】にもいろいろあるが敵王頭にピシリと捨身に打って出る【歩】もあれば、マタ、棋士が手に詰まった時、ひょいと突く【香《ヤリ》】の上の【歩】もある。
王手飛車があろうと桂馬のフンドシがあろうとハシ【歩】は依然
(荒井良平 宛)
(二)[#「(二)」は縦中横] としてハシ【歩】である。
十月廿七日石家荘迄貨車で輸送されて、それから行軍三日、此の辺りの新しき土[#「新しき土」に傍点]はほこりっぽくッて困る。露村《ローソン》にて前線部隊に編入さる。
気候は内地
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