よウ似てるけど、と言った顔で立ち止りました。
T「兄さんじゃ無い?」
へッと伊吉。
「おふみか?」
T「何考えてんの?」
と伊吉、
「いや何でも無いさ」
その傍を通り掛かったお侍、結城左久馬(相当大身である)。供の若侍二人を見返って「あの女」と言う。おふみの事である。美人じゃ喃と言った顔で見惚れた。
(F・O)
8=(F・I)とある境内の茶店
朝である。
床几の隅に腰掛けておふみが考え込んで居る。
T「何を考え込んで居るんだい」
おしゃべり伝六が立ち止って訊ねました。おふみ、
T「まあいい処へ、休んでいらっしゃいな」
伝六腰を下ろした。
結城左久馬、若侍五六を伴ってやって来たが、茶店の伝六とおふみを見て立ちどまる。左久馬供侍に、
T「あの女、虫がついている喃」
その侍がハッ仰せの通り。左久馬が、
T「苦しうない、あの虫踏みつぶせ」
若侍心得て去る。伝六におふみ話す。
T「あたし、はっきり断ってやったの」
もったいねえと伝六。
T「しかし生島屋は金持だぜ」
T「嫌ね此の人は」
T「あたし金持は大嫌い」
と言って、
T「それでね兄さんとても悲観していたわ」
そうだろうと伝六。おふみが、
T「ひょッと兄さん変な気を起して」
T「川へはまるか首をつるか」
成る程と伝六。
T「それが心配なの」
とおふみが言ってる時、前を通り過ぎる娘二人、
T「厭なもんね土左衛門ッて」
えッとおふみ胸騒ぎがします。伝六が、あのもしと呼び止めた。振り返った娘に、
T「見たんですか土左衛門を?」
えーと娘が、
T「たった今其処の橋の下で」
伝六が、その土左衛門、
T「男ですか?」
えーと娘達――おふみ心配だ。伝六が慌て出した。
T「一ッ走り見て来るぜ」
伝六走って――
9=鳥居の処で
出会い頭に衝突してひッくり返った。
T「無礼者ッ」
と叫んだのが結城左久馬の連中。侍の一人が伝六の首筋掴んだ。
あばたの敬四郎と子分の松公が通りすがりに之を見る。
10=茶店
仕出しが二人三人口々に「喧嘩だ」と叫んで走って行く。
其処へ敬四郎が来て腰を下す。おふみ「何ですの?」敬四郎が、
T「喧嘩さ」
と言って、
T「可哀そうに伝六の奴」
「へッ」
おふみ驚いた。遠くワイワイ騒いでる群集(五、六カット程で)カメラ
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