T「不義者ッ」

60=下の室
 お類と伊吉、その声にキョロキョロと辺りを見廻す。
 敬四郎尚も大声で、
T「離縁じゃ、今日限り離縁する」
 下ではウロウロして居ります。その時

61=玄関
 雪崩れ込む捕方の一隊、寺中は大混乱の巷と化します。
 結局、
 結城左久馬と坊主の浪之助とお類、覆面の太郎左衛門、おふみ等は到々逃げてしまう。馬鹿を見たのは敬四郎夫婦です。
 ふん捕まって「違う俺だ俺だ」
 と叫んで居る。
 伊吉は逃げて行く浪之助とお類の姿を見て後を追う。
                  (F・O)

62=(F・I)舟宿於加田の表――
 浪之助に連れられたお類が逃げ込む。追って来た伊吉続いて入ろうとして、お内儀にとめられた。
T「お類さんがッ」
 「来ている筈だ」
 「そんな御方は来て居りません」
 「いま見たんだ」
T「早く帰らぬと御主人様が心配なさる」
 とお内儀を押しのけて入る。

63=内部
 一室の襖がガラリと開くと室の中には浪人浪之助。宿の着物を借りて坐って居る伊吉が、
 「お前さんは?」
 浪之助が、
 「今の寺の和尚様さ」
 伊吉ふと室の隅にぬいであるお類の着物を見て、
T「お類さんを何処へ隠したんだ」
 浪之助が「冗談言うねえ」
T「隠しゃしねえよ」
 風呂へ入ってらァ、
 と云う。
 伊吉
T「お類さんを返して呉れ」
 「返す? 馬鹿な事」
 と浪之助。
T「あれァ俺の女房さ」
 伊吉次ぎの室に入ろうとする。浪之助引戻して蹴倒しさんざんな目に会わす。其処へ風呂上りのお類入って来て、
 「おや何うしたのさ」
 「お、お類さん」と伊吉。
T「この青二才がお前を返して呉れとよ」
 お類がフンと冷笑する。伊吉呆然。
T「嫌な奴ね」
 と、お類浪之助にしなだれ掛かる。伊吉怒って立ち上る。又蹴られた。

64=表
 伊吉蹴り出された。無念の涙で立ち上り、とぼとぼと帰る。窓格子の障子が開いてお類が呼び止めた。冷笑を浮べ乍ら、
T「いいお湯が沸いてるよ」
T「一風呂浴びてお帰りよ色男」
 伊吉口惜し涙。笑うお類と浪之助。
                  (F・O)

65=(F・I)生島屋
 まだ戸が閉って居る。朝です。取り乱した姿の伊吉が帰って来る。入口の戸を開けようとすると、主人の太郎左衛門が首を出す。
 伊吉ハッとなる。
 (額に傷を
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