、今日我日本に於いて、專ら職業教育を唱へるけれども、之には注意しなければならぬことがある。近頃我國には鍛冶屋のやうな學校もあれば、大工のやうな學校もある。高尚な學校は大學であるが、兎に角隨分高尚な所まで、大工や左官の學問も進んで來て居る。然るに實際今日職業の統計を取つたならば、必ずや日本國民の著しき多數は、車を挽くのを渡世として居る。日本國中の車夫の統計を擧げたならば、恐らくは全國の大工の數よりも、左官の數よりも餘計に在りはせぬかと思はれる。故に大工左官の爲に學校を建てゝやる必要があるならば、其數の上からして、車夫の爲にも學校を建てゝ遣ることが一層必要であらうと云ふた。之は未だ僕が其筋に建議した譯では無いが、若し車夫學校を建てるとすると、それにはどんな學科が必要であらうかと思つて、色々考へたが、先づ第一に生理學が必要と思つた。彼等に取つて欠くべからざるものは筋肉の勞働である。車を曳く姿勢にも樣々あり、又た驅けるときにも、足を擧げて走る奴もあり、ヒヨコ/\と走る奴もある。之を兵式體操を教ふるが如く、其の筋肉を使ふ時分に『進めツ』と云つたら、斯う云ふ工合に梶捧を握り、足を擧げて驅けるのだと
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