せ、具足櫃も常は後《あ》とになり先きになって持たせたが、この際は父の進む前に厳めしく舁がせる。常には継母と弟が乗る切棒駕籠も、この際は父の乗物として、父のあとへ附けた。そういう行列をして関を通るのであった。
父は関所の役人へ何ら会釈もせず、突袖のまま通ることが出来た。その次には私だが、私は既に十一歳だから、大小を帯び、父と同じ野袴紋附羽織に改めて通るのである。が、父のように素通りすることは出来ぬ。用達に連れられて役人の前に進むと役人が厳格に『名前は』と問う。『内藤助之進』と名乗る。『通らっしゃい』という。すると用達はもう宜しいとささやいたから、そこで通った。弟は例の前まくりをやらせられ、女連は髪をあらためられた。女のあらためはさすがに男はやらないことになっていて一人そのために婆アが雇ってあって、それがあらためた。賄賂は定まり通り納めてあるので、皆無事に通るを得、次の間の宿で休息し、再び常の行装になって、旅行を続けたのである。
町人百姓は手形を住地の役筋から貰って通ったものである。この手合の女の検査は武家の女ほど喧《やかま》しくはなかった。町人百姓が何か事故があって手形を貰わなかった
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