出は比較的自由であったが、勤番者は、田舎侍が都会の悪風に染まぬよう、また少い手当であるから無暗《むやみ》に使わせぬようとの意もあって、毎月四回より上は邸外へ出ることは許されなかった。その中二回は朝から暮六時まで、二回は昼八時から六時までであった。勤番者はこれを楽しみにした。彼らはその日になると目付役より鑑札を貰って出《い》で、帰るとそれを返付した。
勤番中にも度々江戸に来た者や、或る事情で一年でなく二年以上勤続した者は、古参といって、新参の勤番者に対して権力を持ち、江戸の事情を教えて注意を加えもした。新参は江戸へ来ると間もなく古参に連れられて市中を見物した。その頃の赤|毛布《ゲット》である。これらの田舎侍は大芝居の見物と吉原の女郎買は一、二回しないと田舎への土産にならぬというので、必ずしたものである。夜は外出が出来ぬから吉原では昼遊をした。吉原の昼間のお客といえばまず田舎侍であった。芝居は刎《はね》が夜に入るから一幕は見残して帰らねばならなかった。古参になるとずるく構えて、大切まで見て帰った。しかし時刻が切れるので、高い駕籠を雇うか、さなくば猿若から屋敷までひた走りに走りつづけた。た
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