人立ち』といって、二、三人の武者が描いてあった。これは価も高かったので、こういうのを持っている事は誇りになった。凧糸は凧の大小に従って太さに等差があったが、からます時には凧の大きさよりは一、二等ずつ上の太い糸を用いたものである。
鳥追《とりおい》は藩邸には来ないのであったが、町へ出るとよく見掛けた。深い笠をかむり綿服ではあるが小綺麗な物を着て、三味線を弾いて歩いた。これはいわゆる『非人』から出たので、この鳥追の中から『鳥追お松』という名代の女も出たのだ。鳥追の女は正月以外の時には浄瑠璃などを一くさりずつ語って歩いたもので、また端唄なども唄ったかと思う。
正月の中旬になると、甲冑のお鏡開きがあった。武門では年始に甲冑を祭り鏡餅を供えたので、それをお鏡開きの時に割って汁粉にして食べるのだ。君侯の館でもこの事をして、おもなる藩士に振舞われた。めいめいの家でもやった。もう鏡餅は堅くなってるので斧を以て勇ましく打割ったもので、汁粉の膳には浅漬を唯一つ大きく切ってつけた。『ひときれ』という武門の縁起で、斧を以って割るという事も陣中のかたみである。
『ひときれ』といえば、その頃江戸では『辻斬』が
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