口はチャリンと錠が下りる。これもなんだか囚人の受取渡しでもするような有様であったのだ。
他の藩でもそうであろうが、私の藩で家老と他の藩士とは、非常の等差のあったもので、家老はその他の藩士を何役であろうが呼び捨てにする。藩士は某様といって殆んど君公に次いだ敬礼をする、途中で出逢っても、下駄を穿いている時はそれを脱いで地上に跣足《はだし》で立たねばならぬのだが、それを略して、下駄のまま鼻緒の上へ足を乗せて、型ばかり脱いだ式をした。その位の関係であったにかかわらず、世子から家老の某を呼べとの仰があれば、我々小姓の一人は直に御次ぎの外なる御家老部屋へ行って、そこに厳めしく並んでいる家老に対って、此方は片膝を折って片膝を立てたまま、一礼もせず、『某召します、』と大きく呼ぶ。家老は直に平身低頭して、畏りましたと御受けをする。この時自分は君公の命を伝うるのであるから、なかなか威張ったもので、平常家老に対して頭を下げた不平を聊か漏らす事が出来た。これは小姓の一つの役得といってもよいのだ。一体封権の世では君臣の間という事は厳重であったから、君前においては互に名を呼び捨てにする。家老であろうがまた親であ
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