り草双紙にも親しんだが、かの間室から貰った草双紙の綴じたのの中に、種彦《たねひこ》が書いた『女金平草紙《おんなきんぴらぞうし》』というのがあった。この草紙は女主人公が『金平《きんぴら》のお金《きん》』で、その夫が神野|忠知《ただとも》にしてある。この人の句で名高い『白炭や焼かぬ昔の雪の枝』というのが、或る書には『白炭は』とあって名も種知としてある。この異同から種彦が趣向を立てたものであった。その関係からこの本には他のいろいろな句ものっていた。
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茶の花はたてゝもにても手向かな
軒端もや扇たるきと御影堂
角二つあるのをいかに蝸牛
元日や何にたとへむ朝ぼらけ
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というもあった。これらを読んで面白そうなものだと思ったが、それが三十幾年の後に『俳人』などと呼ばれる因縁であったといわばいえる。
この草双紙の筋は、忠知が或る料理屋で酒を飲んでいると、他の席にいた侍のなかまが面会したいといって来た。忠知はそれを面倒に思って、家来に自分の名を名乗《なのら》せて面会させた。すると、その家来が悪心を起して、その席の一人の侍の懐中を盗んだ。それがすぐ発覚したの
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