漸次《だんだん》と本物をさすようになる。一体武士の子は三、四歳より一刀を帯びる、それから大小を帯ぶるようにもなれば、いよいよこの一腰は離されぬものとなって、ちょっとでも門外へ踏出す事があればたとい友達と遊ぶ時にも、この一刀は帯びている。わが家へ人が訪ねて来た時にも、必ず一刀は内玄関まで提げて出るのである。他の家を訪問する時にも、帯びている大小の中、大は座敷の次の間まで持ち込んで、そこへ置き、それから座敷へ通って、先方の家人に挨拶する時でも、小の方は帯びている。よほど打|寛《くつろ》いで話でもする時でなければ、小刀は腰から離す事はない。たとえば人の年忌で法会などをする時は、主客共に上下を着て必ず一刀を帯びている。そこで迎えた法師が経を読み終えて、いよいよ食膳につくという時になると、法師が『御免なさい』といって袈裟を脱いで輪袈裟に更《か》える。そこでわれわれもそれに対して帯びていた小刀を脱して座側へ置き、箸をとるのである。それから法師が再び袈裟を着けて帰る時には、われわれも小刀を帯びて見送るのである。こんな風で聊かでも儀式張った時は、家の中においても小刀は帯びていた。また貴人でも鷹野等に出
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