工達の芋を洗うようにこみ合う中を縫うて進んだ。
 蘆はたまたま家並の間に僅か許り見られるだけで物足りない。夕空には夜の色が静かに滲み出て頭上を掠め飛ぶ蝙蝠の影が淋しい。

[#ここから5字下げ]
川蘆の蕭々として暮れぬ蚊食鳥
蝙蝠の家脚くゞる蘆の風
[#ここで字下げ終わり]

行けども行けども思うような蘆が見られないので引き返そうかと思ったが断行もしかねていた。

[#ここから5字下げ]
蘆の中に犬鳴き入りぬ遠蛙
[#ここで字下げ終わり]

 併し、展けた。遂に大蘆原が眼前に展けて来た。私の心は躍った。折しも輝き出した星の色は私の心の喜びの色か。

[#ここから5字下げ]
行く春や蘆間の水の油色
[#ここで字下げ終わり]

 思い残すこともなく帰途についた。三圍神社の蓮池には周囲の家の灯影が浮いて蛙が鳴いている。其角堂では今頃何をしているだろうか。

[#ここから5字下げ]
青蘆に家の灯もるゝ宵の程
[#ここで字下げ終わり]

 対岸の十二階の灯にも別れを告げて、薄暗い通りを辿って家へ帰った。
 留守中に山形の木屑兄の句稿と出雲の柿葉兄の絵ハガキとが来ていた。
[#地から1字上げ]―大
前へ 次へ
全7ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
富田 木歩 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング